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「ひまわり 春のアサガオ」 5

 スズカに彼氏が出来た。信じられない事だ。それを知った日から私は何をしてもうわの空だ。スズカに話の続きを聞くのも怖いし、その後連絡は来たのかどうかも気になりながら聞けない自分がいる。ただ言えるのは、その話をしてからのスズカは日増しに暗いオーラに包まれている事だ。

 唯は最近バイトが忙しいらしい。なんのバイトをしているかは教えてくれないけれど、以前より険しくなった顔が日々の労働の疲労度を物語っていた。
 スズカも唯も相手をしてくれなくては私は一人ぼっちだ。なんとなく途中で降りた駅は大学生が大勢いた。私はふとスズカの合コン話が頭をよぎり、私も合コンにでも行ってみようかなと一瞬考えてみる。7秒後、人見知りで基本的にまず初対面の人間を疑ってかかる私にはムリだなと答えを導き出す。まあ、用心深い方が都会の荒波に飲まれにくいだろうと自分を慰めながら、大学生が行き交う見知らぬ道を歩いていた。

 その時、スズカからメールが来た。
「私、いま高田馬場という所にいるんだけどこれから会える?」
 日頃はメールを即レスしない私がすぐに返信した。
「奇遇だなあ。私もそこにいるよ今どこにいるの?目印になるものはある?」

 スズカから電話が来た。来たと同時に私の後ろの方から高いトーンの京都弁が聞こえてくる。

 見知らぬ喫茶店に入り、スズカはうつむいたままでいきなり議題を出してきた。
「うち、別れた」

 短い言葉にそれなりに事態を把握しながら、私はどう接すればいいのかを考えていた。私は実は人の恋愛話は苦手なのだ。私なんかに気の利いたアドバイスが出来るはずもないし。

「彼なあ、もう会いたくないって、うちみたいな変なオタク女はもう嫌やって」

 スズカはうつむきながら必死に涙をこらえているのはわかった。気の強い子だから、人前では泣きたくないのだろう。多分、自分が失恋した事を人に話すのだって本当は嫌かもしれない。

「でもなあ、あんたもオタクやんって言ったんよ。コスプレが趣味とか言ってたやんって。そしたらなあ、俺はお前とかお前の友達に合わせていただけだ!って言うんよ。員数合わせでオフ会に来ただけで、仕方がないから話を合わせてただけだ!って」
「もう話を合わせて好きでもない趣味の話をしたり、そういう店に連れていかれるのは苦痛なんやて。最初はうちに気に入られたくて話を合わせてたけど、もうムリだって」

 スズカにとって、おそらく初めて好きになった男性はクズだったという事か、簡単によく知らない男を外見で選ぶからだと私は思ったが、そんな本音は勿論口には出せない。スズカは本気で好きだったのだろうから、それを私がとやかく言う事は出来ない。
 しばらく沈黙が続いた二人の空気は、結局結論めいたものは何も生まず流れていった。私は「泣いて気が済むのなら、気が済むまで泣くしかないのだ」と思いながら、涙をこらえるスズカを見つめていた。

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