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「星と海の記憶」 3

 例えば都会の駅のベンチで隣に座ってきた女の子とは、おそらくこれが最初で最後で二度とその子とは合わない確率が高い。しかし、ここは田舎である。朝のラッシュに三十分に一本しか電車が来ないような無人駅だ。

 今朝は何日かぶりに彼女がいる。私が隣に座るとまた独り言を始めた。

「雲にはそれぞれ速度がある。速く過ぎていく雲、なかなか過ぎていかない雲」

 少女は独り言を言い終わると、あとはひたすら黙って海を眺めるだけである。

 翌日も彼女は私の隣で独り言をつぶやいた。

「海は空の色を映す鏡。空が元気なら海も鮮やかな色。空が不機嫌なら海も荒れた色を映す」

 次の日は、こんな事をつぶやいた。

「波はひとつひとつが強弱が違うから、その強さをよく見ておかなければいけない。強い波は岩を砕く。波と海を侮ってはいけない」

 少女は何故独り言を洩らすのか? 私に伝えたいメッセージなのだろうか? 確かめたいが、いきなり知らない男に声をかけられたら怖いであろう。ましてや、ここは他に誰もいない無人駅だ。気まずい間柄になったら、これから毎朝顔を合わせにくくなる。田舎だから他の交通手段もないだろう。
 とりあえず私は少女の存在の何か、ほんの少しの情報の断片を手にしたくて、小夜の漁港の近くにある小さな居酒屋を週末に訪ねる事にした。そこの主人なら何か知っているかもしれない。
 その店は、私が小夜に来てからの唯一の行きつけの店でもある。

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