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「春のひまわり 春のアサガオ」 1

 ようやく埼玉県での暮らしにも慣れてきた。池袋のお店も結構覚えた。満員電車は絶対好きになれないけれど、今住んでいる町も生まれた町と同じくらいに好きになってきた。
 いや、生まれた町にはもう辛い思い出しかないような気がする。

 私は山口県山口市で生まれ育った。父は農園をやっていて、母はそれを手伝っていた。一人娘の私は両親に可愛がられ育ったらしい。「らしい」というのは、そんな記憶はあまりないからだ。祖母はそう言っているのだが、私はその実感はない。父は毎日畑仕事に明け暮れ、夜は風呂上がりに酒を飲むとさっさと寝てしまう人であったし、母は毎日私に小言を言うばかりで優しくしてもらった事など憶えていない。

 そんな両親に転機が訪れた。私が小学校四年の春、畑の裏から突如温泉が湧いたのだ。
 父はチャンスとばかりに畑を担保にして借金をして、そこに温泉旅館を建てた。勿論、従業員も雇わなくてはいけない。父は畑を放り投げて旅館業に夢中になった。畑は一部だけを母が面倒見る事になっていった。

 しかし、いきなり新興な温泉旅館が繁盛するほど世の中は甘くない。一年が過ぎた頃には開業の時の借金に加え、更に借金が増えていき、春から夏に季節が移った頃、旅館は廃業となり、父の元には多額の借金が残った。

 旅館には元々乗り気ではなかった母は私を連れて山口を出た。父も土地と旅館を売り払い、残った借金を返済するために大阪に出て建設業で働いているらしい。

 私と母は、母の実家がある埼玉県朝霞市に住み、母は実姉の紹介で入った化粧品販売会社で営業をやっている。

 私は埼玉の中学を卒業し、都内の高校を春に卒業し、都内の美容師の専門学校に通っている。パッと見はどこにでも居そうな女の子。セミロングに茶色の髪。でも、スカートは絶対履かないというポリシーで、電車の中ではPSPでゲームをやっている変わり者である。
 生田春香18歳。専門学校生。それが私のプロフィール。でも、私には人にはなかなか言えないパーソナリティが幾つかある。それはイコールで私の悩みでもあるのだ。

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