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「星と海の記憶」 2

 暦は七月になった。暑さが増していき、7:36の上り電車を待つ二人は朝から顔に少し汗を浮かべながら、汐の香りのする風を浴びていた。
 そうなのだ。今日もホームには二人だけ。少し距離を置いてベンチに座っている。

 電車がやってくる時間まであと10分くらいになった時、少女は突然つぶやいた。
 「ヒロイウミヲ ヒロイココロデウケイレラレル。ソンナアナタノヤワラカナココロヲモットシリタイ。」
 初めて聞いた彼女の声は、か細く、高い、まるで壊れたオカリナみたいな繊細な音色だ。私は何を言い出すのだと身構えながらも、その意味不明な言葉達に戸惑いをおぼえながら、聞いていないフリをするのに精一杯だったような気がする。
 彼女は結局、それ以上の言葉は発せず、じっと乳白色の雲と藍色の海を見つめていた。

 そんな独り言を聞いた日の翌日から、彼女の姿は駅から消えた。あの独り言に綴られた言葉はもしかして何かのメッセージだったのであろうか?私に送られてSOSであったのであろうか?それを確かめたくても彼女はホームにいない。
 学校が早くも夏休みに入ったのかもしれないが、多少の胸騒ぎを感じた私は、この町にやってきて唯一出来た行きつけの飲み屋の主人に聞いてみようかと思い立った。主人は町の事情に詳しそうな事は常連客との会話で感じる。この小さな漁村に隣町まで通学している子がいれば、それなりに噂として伝わっている事だろう。ひょっとしたら、その子についてもう少し詳しい事がわかるかもしれない。
 私は何故、見ず知らずの少女にそこまでこだわっているのか自分でもよくわからなくなっていたが、あれからずっと耳を離れない、あの独り言の中に羅列された言葉達が、不思議な力と強さで脳をノックするのだ。

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