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能代のヤツメウナギ

 初めて東北を旅したのは3月だった。二日目に青森県の五所川原(ごしょがわら)に行き、リンゴ畑の広がる岩木山の麓を往く五能線に乗って、秋田県の能代(のしろ)を目指した。

 私の乗った列車は「ノスタルジックビュートレイン」という客車列車。茶色いディーゼル機関車が、茶色と黄色のツートーンカラーの客車を引っ張る。
 私の乗った指定席は向かい合わせの座席にウッドテーブルが付き、天井には三枚羽根の大型扇風機が付いている。これは飾りで、エアコンは付いているのだが、このようにレトロな内装の列車である。しかし、観光シーズンではないから乗客はまばらで、地元の人が乗っている後ろの自由席車両もあまり人がいない。
 列車は日本海の荒波を横目に見ながら、波で削られた岩が並ぶ海岸を走る。人家は少なく、駅も小さな無人駅ばかり。指定席には展望デッキが付いている。ドアを手で開けてデッキに出ると、冷たい風が頬を刺してくる。濃い紺色の海に夕日が沈んでいった。

 19:00過ぎに能代に着いた。駅の近くにアーケードがあるが、既に多くの店は閉まり、ドーナツ屋とパチンコ屋が灯りを見せるのみ。
 私は駅から一番近い飲み屋に入った。

 小上がりの座敷とカウンターだけの店には先客はいなかった。私は旅行鞄とハーフコートを座敷に置いてカウンターに座った。
 ビールといくつかのツマミを頼み、日本海の夕日を思い出しながら味わう。初老の主人は無口に黙々と料理を作っている。
 ビールの瓶が空いたので、次は秋田の有名な地酒の一つである両関を頼んだ。これに合いそうな肴を思案していたら、壁に貼られたヤツメウナギという文字が気になり注文。

 目の後ろに空気孔が並んでいるかので八ツ目に見えるという。名前は知っていたが、食べるのは初めてだ。それを主人に伝えると、ようやく無口な主人が喋り出した。

 ヤツメウナギは市内を流れる米代川に行き、主人が自ら捕ってくる。滋養強壮の効き目が凄い。そんな話を聞きながら食べたヤツメウナギは、ナンコツのようなコリコリした歯応えのあるウナギであった。

 ようやく話が弾み始めたら、お客さんがやってきた。「見慣れない人がいるね。どこから来たの?」と聞かれ、そのおじさんは隣に座る。私が川崎から来た事を話すと、おじさんは「川崎か懐かしいな。俺は出稼ぎで鶴見で働いていた事があるんだよ」と答えた。
 ここからは、物静かな主人、明るいおじさん、自分の三人で話に花が咲く。
 能代市は昔は7万人くらい住んでいたが今は五万五千くらいである事。高速道路のインターが、青森県寄りの町大館市に出来てからは大館市の方が発展している事。今はバスケットボールで町おこしをしている事などが話題になる。能代市は高校バスケットの強豪能代工業がある。
 あまり景気は良くなさそうではあるが、二人とも地元への愛着は人一倍なようであった。居酒屋で知らない人と話をするのは初めてだった私だが、旅先で飲み屋に入ってコミュニケーションする楽しさを教えてもらった夜であった。

 「また来ます」と名残惜しく店を出た私は、予約していた駅前のホテルまでの道をほろ酔い気分で歩くのだった。

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