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駅弁を売っている無人駅〜新潟・日出谷〜

 図書館から借りているレイルウェイライター種村直樹さんの「郷愁の鈍行列車」を読んでいたら、磐越西線(ばんえつさいせん)の話が載っていた。磐越西線には私も春夏冬に何度か乗ったが、思い出深い駅がある。

 7月の暑い日。青春18きっぷを持った私は福島県の郡山から磐越西線の鈍行に乗り、会津若松のホームに降りた。会津盆地は盆地特有の気候で風が生暖かく、汗が止まらない。
 盆地の農村の中を走り列車は喜多方に着き、私も喜多方で途中下車をした。喜多方は、蔵とラーメンが有名な町だから、私は駅前の店でラーメンを食べた。
 学生さんは割引などと品書きに書いてある、町の食堂風な店。鶏ガラのダシが効いたつゆが旨く、麺のコシもあるラーメンを食べると、再び汗が止まらない。

 喜多方から磐越西線は電車ではなくディーゼルカーになる。エンジンをうならせながら列車は盆地から山間へと入っていく。喜多方駅前の店で買ったワンカップの地酒を開けて、窓を開けて風を受ける。冷房の付いていない車両なのだ。
 車内は、会津若松か喜多方で買い物をしてきた風な中高生らが乗っているが、一両に20人くらいの乗車率。農村の小駅に停まる度に乗客は減っていき、やがて列車は新潟県へと入った。

 新潟県に入って二駅目の日出谷(ひでや)で降りる。この駅では駅弁が売られている事を、時刻表の記載で知っていた。ホームに駅弁やジュースやお菓子の入ったケースを提げた売り子のお兄さんがいた。しかし、列車は私を含めてわすがな乗客を降ろすと、そそくさと発車していき、結局誰も何も買わずじまい。駅前にある店へ帰っていくお兄さんの後ろ姿は、どこか寂しげだった。

 向かい合わせの二番線に一面のホームの横は雑草の茂る空き地。かつては、県境を越えるために蒸気機関車の増結などが行われていた駅なのだそうで、その作業で停車時間が長かった。駅弁が売られているのは、その時代の名残らしい。

 農協(JA)の事務所が入っているコンクリートの駅舎は無人駅。私は駅前からゆるい坂道を下りながら阿賀野川の上流の川岸を目指した。付近は山に囲まれ、僅かな平地に農地が開けた農村という風景だが、山肌が緩やかなので夕方が近い日差しがまだ山に隠れず輝いている。だから「日出谷」という地名なのだろう。(市町村名は、新潟県東蒲原郡鹿瀬町)

 阿賀野川の上流は護岸されておらず、自然の姿を残しゆるやかに流れている。ただただ静かな眺めだ。

 駅に戻ったが、新津・新潟方面の列車はまだ時間があるので、喜多方方面に一駅戻ってみる事にした。再び現れたお兄さんから駅弁「とりめし」を買う。
 日出谷より更に小さな農村な、一駅隣の豊美駅で降りて駅前を軽く歩いて時間をつぶし、ほどなくやってきた新潟方面の列車にようやく乗り込む。
 日出谷駅を再び通る。駅弁の売上が気になるが、前の席の人がお菓子や飲み物を買い、勘定が終わると発車。駅弁は買われなかった。

 寂しい気分で先ほど買った日出谷の駅弁を開ける。かわいい雌鳥の絵の描かれた包み紙、へぎで出来た容器。炒り卵とかしわのそぼろご飯。
 あまりに素朴な駅弁の味も美味しく素朴で、なんだか懐かしい味がした。

 列車はやがて、温泉町津川、越後平野に入り五泉と過ぎていき、空は紺色になっていった。明日はもっと駅弁が売れる事を願いながら、私は新潟を目指した。

 (誠に残念ながら、数年後日出谷駅での駅弁販売は廃止となってしまった)

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