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流氷

 以前、とても心が折れた出来事があり、心身ともに脱け殻みたいになった事があった。その一年前には突然仕事を辞めなくてはいけない出来事もあったから、二年続けて似たような時期にSHOCK!を味わった。

 毎日、仕事をしていても力が入らず、このままではいけないと思った私は、青春18きっぷを使って鈍行で北海道に行く旅をする事にした。

 函館に着いてから、北海道フリーきっぷという特急も急行も乗れる切符を買った私は、その切符を片手に北海道の端を目指した。
 北海道最東端、つまり日本本土最東端の納沙布岬(のさっぷみさき)に行った。黒ずんだ波がゆるやかに流れる海。海岸道路には通る車も人もいなかった。吹く風は寒いではなく、冷たく痛い。私は、孤独を噛み締めながら岬の道を歩いた。

 翌日、列車を乗り継いでオホーツク海を見に行った。北浜というオホーツク海の目の前にホームがある駅があり、私はそこで降りて海岸へ向かった。

 雪に包まれた砂浜は砂浜ではなく雪浜になっていて、海は氷に覆われて真っ白だ。つまり、海岸と海面の境目がわからない。
 「これが流氷か」と、私は厳(おごそ)かな気持ちになり、海を見つめ、雪浜に指で文字を書いた。
 海面は凍り、どこまでも真っ白だ。上を歩いて遠くまで行けそうに思えた。これが「流氷」。自分の折れた心など、この壮大な自然に比べたらなんとちっぽけな事か。
 私は「人は生かされて生きているのだ」と、大自然に教わった気持ちになった。

 北浜駅の木造駅舎は無人だが、建物は喫茶店として使われていた。入口前の列車待合室の壁には、全国から流氷を見に来た人達が来訪した印として、使用済み定期券を貼り付けてあった。
 人は一人では生きられない。だからこそ何かにすがり、誰かを頼るのだ。この地を訪れた人達も、流氷に何かを求め、何かを得て帰っていったのだろう。

 凍えるような壮大な流氷も、春になれば氷は溶けて海は海になる。春がやって来ない冬はないのだ。

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