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平福

 ある年の年末、私は中国地方に二泊三日の旅をした。二泊目は鳥取に泊まる事にした。雪の鳥取の温泉旅。
 浮き足立つ心を抱え、一日目は岡山県内から智頭(ちず)急行というローカル線に乗り、兵庫県の佐用(さよ)という町に来た。山に囲まれた小さな盆地の町佐用。小夜(さよ)姫にちなんで付けられた地名という駅前の観光案内板には、星が綺麗な町と書かれてある。良さげな町なので、ここを一泊目にする事にした。
 駅の近くを流れる川の堤防には、童話のイラストが書かれてある。山に隠れた西日が、少しずつ町を夜へと導いていく。
 駅に戻った私は、電話帳で旅館を探した。しかし、佐用には旅館・ホテルは無いみたいだ。佐用は智頭急行とJR姫新線(きしんせん)が接続する駅。小さな町だが、駅員さんもいるくらいの駅だし、間違いなく旅館があると思い込んでいた。 駅前の雑貨屋のおじさんに聞いてみたが、やはり旅館はないとの事。最近廃業したらしい。
 仕方なく私は隣町の平福に向かった。手持ちのガイドブックによると、かつて因幡街道(いなばかいどう)の宿場町だったと書かれてある。宿場町だった町なら旅館がありそうだ。

 平福はログハウス調の綺麗な駅舎の無人駅であった。
 薄暗くなってきた駅前を囲むように、周囲は山。谷の間に小さく開けた盆地に作られた小さな町だ。旅館は一軒あり、宿泊OKとなる。
 民宿のような小さな旅館は、女将さんが出迎えてくれた。突然の宿泊客なので夕食は簡単なものしか出来ませんがという事だったが、風呂から上がると、カツとサラダ、カニ足が一本ある小さな鍋、デザートなどテーブルが賑やかになっていた。瓶ビールをいただき、美味しく夕食を食べた。家族の夕食用のおかずを少し回してくれたのかもしれない。
 親切な旅館だと感激していたら、部屋のストーブが壊れた。家の主人が直しに来てくれた。笑顔が頼もしい主人であった。

 物音一つしない山の盆地の宿。宿泊客は自分一人。朝起きて、洗面所に行くと、窓の外は雪であった。

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