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川湯温泉

 日本全国を旅して色んなローカル線に乗ってきたけれど、そんな自分に難しい質問が「一番景色がいいローカル線はどこ?」である。景色というのは季節によって印象が変わるものだから、一度や二度の乗車では判断してはいけない気もするのだ。
 それでも、一位に推したい路線は北海道の釧網(せんもう)本線だ。釧路と網走を結ぶこの線の車窓には、釧路湿原、丘陵の酪農地帯、白樺の山、オホーツクの流氷と原生花園と、本州では見られない様々な風景が展開される。
 初めて釧網本線に乗ったのは冬だったが、二回目は初夏だった。

 6月と言えども、北海道はまだ春である。肌寒さを感じながらも、早朝3時には空が青く明るくなる北海道の早い朝。札幌からの釧路行き夜行列車から降りた私は、一両しかない釧路発のディーゼルカーに乗り換えた。
 列車は緑に包まれた広大過ぎるほど広大な釧路湿原を往き、摩周湖への最寄り駅摩周を過ぎるとだんだんと山あいに入って行った。白樺の林を暫く走ると、小さなホームにログハウスの駅舎がある無人駅に停まった。川湯温泉駅だ。

 駅前から昭和年代製である事は間違いない古びたバスに乗り込むと、運転手に行き先を聞かれた。共同浴場であると伝えると、建物の前で停めましょうとの好意を受ける。北海道の良い所は、旅人への厚いおもてなしがある事だと改めて実感。
 共同浴場は木造の小さな建物で、中に入ると誰もおらず、料金箱に料金を入れて入る仕組みになっていた。
 係員もいないが、客も居ない。貸し切り状態で、5、6人入ったら一杯になりそうな小さな浴槽に浸かる。硫黄の匂いが強く、温泉玉子が美味しく作れそうな気がした。

 温泉から上がり下駄箱へ向かうと、料金箱の近くにノートがある事に気付いた。開いてみると、旅人の来訪記念の書き込みノートだった。自分も何か書くかと過去の書き込みを読みながら文章を考えていたら、前日の午前にこんな書き込みがあった。
 「今、彼氏と来てます。誰もお客さんがいないからHしちゃいました」
 今日も昨日も、朝は閑散としているようだ。
 男風呂、女風呂、どっちで?などと思いながら、その書き込みを読んでいたら、一人お客さんが入ってきた。二十代の女性だ。
 しかし、入ってきたはいいが料金箱の前で固まっている。私に声を掛けてきた。
 「すいません。これってお釣りはどうしたらいいんでしょうか?」
 聞くと、50円玉の持ち合わせがなく料金ぴったりで払えないのだそうだ。私の財布にも50円玉はなかった。私は、「いい湯でしたので、その金額でも安いです。50円多く払ってみては」とアドバイスした。
 彼女は納得した様子で、「そうですね。多く払えば、今日何か良い事があるかもしれないですね」と笑顔で料金箱にお金を入れた。

 温泉玉子を想像してから空腹を感じていた私は、湯上がりに近くの蕎麦を美味しくいただいた。

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