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浜小清水

 この前、北海道の釧網本線の話を書いた。その記事の話は初夏に訪れた時のものだが、この線に始めて乗ったのは冬であった。冬と言っても三月なのだが、北海道の三月は真冬である。道は凍り、歩いていると何度も転びそうになる。
 その日、釧網本線の清里町駅で降りた時も、ドアからホームに降りた瞬間に凍ったホームに足が滑り、ドアの前に並んでいた女子高生にぶつかりそうになった。避けた女子高生もバランスを崩して転びそうになり、私の周りには明るい笑い声が沸き起こったのだった。

 その清里町から網走方面の列車に乗った私は浜小清水(はまこしみず)という少駅に降り立った。勿論無人駅なのだが、小さなプレハブみたいな駅舎は軽食喫茶店になっていて、私はそこで「海鮮カレー」を食べた。意外に美味しかった。
 駅の前の道路を挟んで能取湖(のとろこ)という湖があるのだが、湖面は凍結していて、白い原野のようだ。その湖を見下ろすかのように、線路脇に雪に覆われた小さな丘があった。雪の階段を登ってみると頂上には町の資料館があった。ただし、冬場だから客はいない。アンケートが置いてあったので書いて投函した。

 空は快晴だが、すぐ近くに広がるオホーツクの海はグレーに染まっている。水面は氷、つまり流氷である。この旅は「傷心」の旅であり、その心を更に凍らせるために流氷を見に来たのだ。

 雪の積もった丘は快晴と言えども寒いので下り、駅の周りを散歩してみる事にした。建物の少ない所だが、アトリエなのかカフェなのか、雑貨屋みたいな店を発見した。
 入ってみると、店内には小物や絵葉書などが売られている。三十代くらいの夫婦が店員のようだ。しばらく、小物や絵や写真を眺めていると、「よかったらコーヒーでもどうぞ」とテーブルに案内された。
 奥さんに話を聞くと、札幌でサラリーマンをしていた旦那さんが脱サラをして、オホーツク沿岸のこの地で店を始めたのだそうだ。自然に囲まれて趣味を生かして店を営む。裕福ではないかもしれないが素敵な人生だ。自分は、幸せな男女を見るのが本当は辛い心境であった筈なのだが、自然な笑顔で笑う二人を見ていたら、こちらまで幸せな気分になっていくのだった。

 美味しくコーヒーと良いお話をいただいたあとは、お土産として絵葉書を購入した。二人は「そういうつもりではなくて、お客さんとお話がしてみたかっただけですから」と恐縮してくれたが、傷心の旅の筈の私に温かい気持ちを与えてくれた二人へのお礼としては、絵葉書代は安いものであったし、そんな二人の作った絵葉書はとても綺麗な色使いの素敵なものであった。

 静かな流氷と湖の町浜小清水。旅から帰ってきて間もなく、資料館で投函したアンケートへのお礼状が町役場から届いた。

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